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「深夜のタクシー」 |
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短編小説
2008.03/11 02:19
時計の短針がちょうどてっぺんを指した頃
行きつけの居酒屋の明かりに照らされた、顔の赤い男は ちょうどそこに通りかかったタクシーを拾うことにした。 目的地を告げるとタクシーは静かに発進し、 電灯のみに照らされた人気の無い暗い道に消えていった。 しばらくの静寂の後、男は運転手に呟くように言った。 「また酔って家まで寝てしまったら・・それはそれで気が楽だが 起きた後に、また家内がしばらく口を聞いてくれなくなるのは不味い。 ならばせめて起きておいて謝ろうと思うんだ。 運転手さん。何か酔いも覚めるような怖い話などありませんか」 10秒ばかし何の返答もない運転手を見て、 男は愛想の無い人だなと思いつつ窓の景色を見ようとすると 突然、運転手は口を開いた。 「・・・ええ、こうやって長年に渡って何人も人を乗せて着てますからね。 そういう類の話なども色々と勉強しましたよ。 良いでしょう。家に着くまで寝ない様に話をお聞かせしますよ」 男は少し嬉しそうな顔をして 座席に崩れるように座っていた姿勢を少し直し 多少のまどろみを感じる中で運転手の話を聞く事になった。 「実はね、ワタシ・・自殺するんですよ」 男はしばらく狐に摘まれたような顔をしていたが、 鼻から抜ける笑い声と共に言った。 「ご冗談を・・」 「いえいえ、冗談ではございません。 長年勤めたタクシー会社を今月中にクビになる事になりましてね。 ウチにはその後に生きていけるほどのお金もないので ワタシが事故を装って死ねば、保険金で家族は助かりますからね。」 「え・・・」 男は何か言おうと思ったが、言葉が喉に詰まり とまどっている間にまた運転手は続けた 「それでね、色々と死に方を考えたんですけど やはり最後は今までお世話になったタクシーに乗って死にたいものです。 しかし20年間無事故で賞状まで貰った私が 昼間から一人で運転していて事故したのでは もしかして故意にやったとバレるかもしれませんからね。 一番事故にあっても不思議ではない状況を考えてみたんです。」 運転手は世間話でもするかのように 淡々とした口調で話を続けて言った。 「時間帯で一番良いのはやはり深夜です。 暗いから視界は狭いし、眠気で注意力が下がったと推測される可能性がある。 そして場所で一番良いのは・・・ 一人ではお客が集まる繁華街などにいるのが殆どなので そんな最中に一人で人気の無い場所に行っても怪しまれる。 なのでちょうどお客が人気のない夜道を指定してくれた時が良いですね。 それにまさか客の乗せた状態で自殺するなんて思わないでしょうしね。」 運転手の話に固唾を呑んで聞き入っていたが この話の趣旨を思い出して、話のオチを読めた男は少しニヤけた。 だが、いつもよりも自分の心臓が早い事に気づいていたので 慎重に運転手の話に乗る事にした。 「しかしそれでは家族が悲しむよ」 すると運転手は答えた。 「いえいえ、家ではまるで邪魔者扱いですからね。 保険金を受け取った時に初めて家族として受け入れてくれそうです」 また少しして男は聞いた 「その客に対しての罪悪感はないのかい」 「たしかにそれはありますね。 でも固く決意したので、申し訳ない気持ちを押し殺して いつものように接するでしょうね。」 他に何か聞く事はないかと男は考え、 ふと、あまりにもその通りで逆に気づかなかった事を 一つ思い出したが、それをいうにはあまりにも恐ろしかった。 もしかしたら、と思うと初めの言葉がつっかえてしまう。 しかし、やはりどうしても言いたくなってついに聞く事にした。 「・・その状況、まさに今のような事ですな」 バックミラーに写る無表情な運転手から 何かしらの言葉が発しられるまでの時間は 男にとって1時間ほどにも思えた。 手は少し震え始めて、心臓はさらに高鳴っていた。 「ええ・・・・本当にそうですね・・。 これは凄い偶然だ。」 さっきよりも若干トーン下がったような運転手の返事に 男はさらに恐怖を感じたが みっともない姿を見せたくはなかったので 出来るだけ澄ました顔を演じていた。 「まさか事故を起こす気じゃないだろうな」 また長い沈黙の時間がやってきた。 もう一度バッグミラーで運転手の顔を見たかったのだが もしそこで目でも合ったりしたらどんなに恐ろしい事か。 自分で変な話をふってしまった事に後悔の念が押し寄せた。 「おっと、この辺りはカーブが多いですね。 気をつけないと・・」 さきほどの男の質問を聞き入れず 更に男の恐怖心を煽るような独り言を呟いた。 車内には独特の空気が流れ始めて 男はついに我慢が出来なくなった。 「もういい、何か気味が悪いからここで下ろしてくれ」 「何を言っているんです。 こんな何も無い所で下ろしたら大変ですよ。」 そう運転手は言ったのだが 男は無理やりドアに手をかけようとしたので 運転手は慌てて言った。 「分かりました!分かりましたよ! 作り話ですったら、全部!」 男はドアに手をかけた状態で固まった。 「もー、せっかくワタシが十分に話を伸ばして 最後に種明かしするタイミングまで考えてたのに お客さんは語り手泣かせですね、全く。」 男はまた同じ表情をしていたが 作り話だというオチにすぐ気づいたというのに こんなにもコロッと騙された自分が急に恥ずかしくなった。 「・・で、酔いは覚めましたか」 運転手の言葉でハッとした後 男と運転手は同じタイミングで笑い出した。 「いやはや、これは完全に一本とられました。 オチにはすぐ気づいたんですけど、 貴方の語りの上手さに乾杯しましたよ」 「ええ、もう最近こういう事ばかり考えてますからね。 ちなみに今のは『逃げようとする客を止める方法』です。」 |
「優秀な刑事」 |
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短編小説
2008.01/29 04:45
暗がりにいた男の顔は
「それ」を燃やす火によって照らされていた。 火を見つめながらその男は呟いた。 「哀れな男だ、優秀すぎるが故に殺されるなんて・・」 その日、1人の刑事が殉職した。 ある捜査の聞き込みの最中に何者かに襲われ、 後頭部を鈍器のようなもので殴りつけられ そのまま息絶えたのだという。 しかし、犯人の手掛かりはそれ以外一切なく 彼が人通りのない所を通るのを まるで熟知していたかの様であり、 付近には犯人に繋がる物的証拠、証言なども 全く得られない事から かなりの計画的知能犯、それも、 この刑事に強い恨みを持った人物による犯行と推測された。 刑事というのは職業柄、 そういった者に標的にされやすいが 彼が殺された理由は、彼を知る者ならすぐに分かった。 彼はこの署のみならず、全国中の刑事と比べても 検挙率が抜きに出ていたという、まさに名刑事であり 彼の持つ厚手の手帳、通称「小松手帳」には あらゆる事件の真相に迫った捜索記述が所狭しと書き記されていた。 その中に、自分の犯行を探る記述がある事を恐れ 口封じの為に殺害したというのは、 動機としてはほぼ確実なものだ。 何故なら、それとほぼ同時刻に 彼の家には泥棒が入った形跡があり、 昔使っていた古い「小松手帳」を入れていると 同僚に話をしていた引き出しからは その手帳が一冊たりとも発見できなかったからだった。 「あいつの仇は俺達が絶対捕まえてやる!」 「そうだ!地の果てまで追い詰めてやるさ」 同僚の刑事たちは怒りに震え、 その日から徹底した調査が開始された。 事件現場からは物的証拠がなかったものの 「恨みを持った人物」という線から辿ると ついに一人の人物に辿り着いた。 その男は小松刑事宛てに 何度か脅迫めいた文章を送りつけており 当時は差出人は不明だったのだが 刑事たちの熱心な捜索により、その足取りを掴んだ。 容疑者の男はすぐに取調室に入れられた。 「おい!いい加減に白状しろ!お前がやったんだな!?」 スタンドライトだけに照らし出された薄暗い部屋で 同僚の刑事は強い口調で言うと、容疑者の男は答えた。 「きょ・・・脅迫については・・・認めます。 なんか・・・・気に入らなくて・・・・ でも・・!殺人なんて大それた事は・・・」 容疑者の男は否認し続けた。 しかし、いくら調べても この男以外には容疑者は一人も挙がらず 「犯行動機の一致」 「犯行当時のアリバイのなさ」 という二点から強引にその男を殺害容疑で逮捕し 他の同僚達もそれを聞いて満足した。 しかし不思議な事に、取り調べの最中 誰一人「手帳」という単語を話さなかった事について 気に留める者などいなかった。 その日、その署の署長が夜遅くに 車に乗り込んでどこかへ向かって行く姿があった。 自分のみならず、同僚達の汚職までをも 完璧に調べ上げていた手帳を持って。 |
「カリスマ美容師」 |
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短編小説
2008.01/27 15:24
あるマンションの一室の風呂場で
男は最近買ってきた散髪用の鋏を使い、 恋人の髪を、不慣れな手付きで整えていた。 切り終わると男は不満顔で言った。 「やはり本で読んだだけじゃ、これでいいのか分からないな。 本当は美容学校にでも行きたいが・・そんな歳でもないし・・」 女は鏡で自分の髪を見ながら言った 「でも・・そんなに悪くないんじゃないかしら」 女は駆け出しの作家で 執筆と、家事で一日が終わってしまい 家に出る機会が少なく、髪の毛がよく伸びっぱなしだった。 男の方は、印刷会社に勤めているが 本当は自分の美容院を経営したいという夢が捨てきれず こうやって恋人を使ってたまにカットの練習をするだけであった。 困った顔をした男の顔を見て、女は言った。 「そうだわ、近所の美容院に行って、聞いてみましょう」 「やめてくれよ。笑われたりしたら恥ずかしいじゃないか」 すると女は笑って返した 「私は別にかまわないわ。じゃあ私一人で行って来るってのはどう?」 次の日、会社から帰ってくると 鼻歌を唄いながら満面の笑みをした女が 男を部屋に迎え入れた。 「聞いて聞いて!凄かったんだから!」 「凄いって・・・何が?」 男は驚いた顔でたずねた。 「えっと・・・ね。まず店に入って 近くに居た店員さんに聞いてみたのよ。 『この髪どうですか?』ってね。 そしたら『どこでカットなされたのですか?』って聞かれたから、 『いつも行く美容院でしてもらったんです』ってつい言っちゃったのよ」 「お、おいおい・・」 「そしたらその店員さんが 『カットの値段はおいくらだったんですか?』って聞いてきて、 私、美容院なんていかないから妥当な値段も分からなかったし その店のカットの値段をそのまま言ったの。」 女は話しながらさらに興奮していた様子だった。 「そしたらね!その店員さん何て言ったと思う?」 「・・・『なんて酷いぼったくりなんだ』とかか?」 男は冷めた笑いをしながら言った。 「違うの、違うのよ! 『それは素晴らしい、今度是非とも教えていただきたい』ですって! そこにいた店長さんまで言ってくれたんだから!」 「ほ・・・・・本当か?」 「だから、私、 『知り合いの美容師さんだから今度行く様に言いましょうか?』って言ったら 『本当ですか!それは嬉しい。どんなに凄い才能の方なのでしょう』って喜んでたわ」 男は未だに困惑した顔で言った。 「え・・・て事はつまり・・・・ 今度その美容院に・・俺が教えに行くというのか?」 「そうよ、貴方は天才だったのよ!」 しばらく同じ表情をしていたが、ようやく男の顔も笑顔になって 二人は飛び跳ねながら抱き合っていた。 「そうか、そうか!それじゃあもしかして 俺が美容院を持つのも夢じゃないかもしれないな!」 「当然よ!なんたって現役の美容師さんが 講師になってほしいって思うほどですもの」 その数日後、約束の日に男は少し緊張した様子で 近所の美容院に向かっていった。 その日は店の休業日にも関わらず、店長と店員全員が待ちかまえていた。 店に入ると店長達に笑顔で歓迎され 店の奥にある、カットの練習などを出来る大きな部屋に案内され そこに全員が入り、備え付けられているソファーに男は座らされた。 「本当に来てくださるとは! 貴方のご指導があれば、さらに店は繁盛するでしょう。 是非とも貴方の素晴らしい才能を私たちにも伝授してください」 「はは、大げさな。では早速・・」 と男は立ち上がって、持ってきた鋏を取り出すと 店員たちがざわめき始めた。 店長は丁寧な口調で聞いた 「あの・・・・何を始めようとしてらっしゃるのですか?」 男は虚を突かれた顔で言った 「・・は?カットの仕方ですよ」 店長は手で口を押さえながら笑った 「ははは!なるほど、冗談がお上手だ」 店員達も皆笑っていた。 全く事態を飲み込めない男は言った 「おい・・・あんたらは俺から何を学びたいんだ?」 すると店長は、不思議そうな顔をした後に言った 「店としてはもう少しカットの値段を上げたいのですが、 下手に上げるとお客さんが怒って店に来にくくなりますからね。 あんなカットで、うちほどの値段にしていても 他の店に出来具合を自慢しに来るお客さんがいるという事は 相当、お客を上機嫌にさせる話術をお持ちなのでしょう?」 |
「不思議な穴」 |
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短編小説
2008.01/27 02:55
その穴が開いたのは3日前の事だった。
とはいってもどこで開いたかは原因は分からず、 気づいたら左手の手の平の中央に、コンパスで刺したような小さな穴が ポツンとついていて、痛みも無かったので男は放っておいた。 さらに3日が経つと その穴はボールペンで貫通させたような穴になっていた。 が、またしても痛みなどは全く無く、 しかも手の平から手の甲まで突き抜けるほどの穴なのに 手の甲には傷一つ見当たらなかった。 その穴は不気味なほど真っ暗だった。 その日から徐々に徐々に穴が広がっていくのが分かり、 恐ろしくなった男はある実験をしてみた。 痛みはやはりなかったので まず、部屋に置いてあった耳掃除用の綿棒を一本取り その穴を探ってみることにしたのだが 明らかに手の甲を貫通するほど入れたにも関わらず 棒はすんなりとその穴に入っていき 遂には8cmほどあった綿棒がスッポリと穴に消えた。 その奇怪な現象に、恐怖よりも好奇心が働き キョロキョロと部屋の中を見渡し 目に付いた30cmほどのはたきを手に取り 震える手でゆっくりとそれを穴の中に入れた。 半分くらい行った所で抜いてみようと思ったのだが 自分の考えていた力よりも随分簡単に抜けてしまった。 それもそのはずだ。 はたきは半分、綺麗に削られていた。 まるで穴の奥にある鋭利なカッターで切られたような・・ いや、その部分の空間だけを切り取ったような感じだった。 興味本位で自分の手を入れていなくて本当に良かったと思った。 男は次に洗面台に向かった。 蛇口を最大まで捻ると、激しく水が溢れて出て、 そっと左手を受け皿にして、その水に近づけた。 第一関節、第二関節、第三関節とまで進んだところで 今まで手で弾かれていた水が垂直に降下した。 強い勢いで流れる水は、溢れる事無く手の穴に吸い込まれていった。 別に体のどこかに溜まっていくような感覚は全く無く まるでその穴は別空間に繋がってるかのようだった。 その間、男は息をするのも忘れるほどそれを見つめていた。 男はそれでもまだ何か衝動的に行動を起こしたくなり、 家を飛び出して近所の川に行った。 激しく流れる川に手を入れると、その部分だけが 排水溝にでも吸い込まれていくように消えていった。 諦めきれずに数時間そのまま川に手を入れていたが 結局何千リットル入れたところで、その穴が溢れる事などないと悟った。 「平石さん、その左手・・どうしたんですか?」 同じ職場で働く年下の女性は心配そうに尋ねた。 「いや、ちょっとこの間の休暇中に手を怪我してね」 手の平全体を包帯で巻いた左手を摩りながら男は答えた。 実際は、当然怪我などは一切しておらず すでに手の平ギリギリまで開いてしまったその巨大な穴を 他人の目から隠す為のものだった。 不幸中の幸い、その穴の拡大進行はそこで終わり 男が最も恐れていた「自分がこの穴に飲み込まれるのでは」 という心配はとりあえずなくなった。 「会社の近くに結構立派な病院が出来たの知ってます? 痛むようなら帰りにでも診てもらったらどうです?」 病院・・・休暇中に何度か考えた選択肢だったが 果たしてこんな不思議な穴を防げる医者はいるのだろうか? 下手すればテレビか何かで騒がれたり 怪しい研究の実験で使われるのではないかと思っていた。 しかし、男は会社の帰りに 気づけばその病院の待合室に居た。 「平石さん、平石憲次さん!」 出来たばかりで多少混んでいた病院だったので 30分ほど待って、ようやく男の順番が訪れた。 看護師に案内され、医者のいる個室に男は入った。 イスに座ると、医者はカルテを眺めた。 「なるほど・・・手を傷められたのですか。 しかし応急手当で済む程度なら 失礼ながら、病院に来る必要もない気がしますが・・」 男はしばらく沈黙した後、 ゆっくりとその包帯を解き、「それ」を医者に見せた。 手の平いっぱいに開いた巨大な深い穴を。 医者は一言も発する事無く、しばし目を見開いてその穴を見つめ、 額から一滴の汗を流し、手の平から手の甲まで入念に調べた。 「これは・・一体・・・」 男の顔を見ながら医者はようやく口を開いた。 そこからその穴が開いた経緯などをある程度説明したが 自分自身その穴が何なのか分からないので 結局まともな説明は出来なかった。 しかし医者も、今までの自分の経験が それに対して全く無意味とは思いたくなかったので 色々と試みてみようと左手をさらに入念に探っていた。 ライトを当ててみても、その光は闇に消えていった。 医者は注意深くその穴を覗き込んでいたが何もなく、 ついには諦めようとしていたのだが ふと、穴の奥から何かの音が聞こえるのに気づいた。 それはかなり遠くの場所にある滝の水が落ちるような 「ドドドドドドドドド・・・」という音で、 男も自分の手を耳元に近づけて聞いていたが、確かにそれが聞こえた。 しばらく二人は手の平の穴から聞こえる音に聞き入っていたが 同時にふと、気づいたことがあった。 「何かこの音・・・・」 男がいうと、医者はうなづいて答えた。 「ほんの少し、大きく・・なっていますね」 数百メートル先にあったような滝のような音は ゆっくりとゆっくりとその音を拡大し 数十メートルにまで近づいたように思わせた。 さらに聞き入っていると ついには音はすぐそこまで近づいていた。 本能的に危険を察知した医者は頭を伏せ、 男は左手を突き出した状態で、低い姿勢になった。 激しい轟音と共に、手の穴から 明らかに穴より大きいサイズの何かが大量に溢れていった。 二人は抗う暇もなくそれらに飲まれていった。 それらはすぐさま診察室を埋め尽くしたが 全く止める気配はなく、穴から異物を吐き続けた。 音により異常を察知した病院内の人々も 逃げる間も無くそれらに飲み込まれていき、病院は埋め尽くされ、 ついには町の外にまで溢れたが、それでもまだ勢いが止まる気配はなかった。 「本当に大したものを発明してくれたよ、君は!」 ある重役は開発部の男に言った。 「ええ、人口が560億を超えてしまったこの星の死活問題ですからね。 私も星を救えたという誇りでいっぱいです。」 ゴミ処理施設にあるブラックホールのような巨大な底無し穴の装置に 処分不可能となり、長年この星の住民を困らせてきたゴミを 数え切れないくらい並んだトラックで次々と傾れ込ませていく光景を 少し高い場所で見つめながら二人は話をしていた。 「しかし・・やはり少し心配だが、本当に宇宙の彼方に運んでくれるんだな?」 重役はそういうと、開発部の男は答えた。 「ええ、当然です。ご存知の通り 我々とは全く無関係の銀河系に転送させる装置ですので。」 「それならそれで、また心配がある。 その銀河に住む異星人に迷惑かけたりはしないのか? そこについては私は聞いていないのだが」 「ご心配なさらないでください。 それも数十年間重ねてきた協議で何度も検証しました。 確率から言って、知的生命体がいる星に あんな小さな転送口が開くなんて事は 宝くじが1万回連続で当たるより少ないですよ。」 開発部の男は笑いながら答えた。 その時、装置から何かが弾かれ、重役の男の頭にコツンと当たった。 それは両端に綿の様なものがついた小さい謎の棒だった。 二人がそれを拾って不思議そうに見ていた。 すると開発部の男は鼻でフッと笑っていった。 「おそらく何かの反発で、入れたゴミが飛び出してきたのでしょう。 もう何も出る事なんてありませんよ」 それを言った直後に 15cmほどの棒が開発部の男の頭に強く当たった。 「な・・!なんだ一体・・」 そう言いながら開発部の男は頭を抑え、 二人はパッと装置の方を覗くと 二人の顔にバシャッっと勢いのある水が噴きかけられた。 しばらくすると、 さらに奥からは滝から落ちる水のような音が近づいていた。 [あとがき] 「手に穴が開いた男」って設定だけ思いついて、 とりあえず書きながら考えたらこんな話になった。 だから初めの行動がまさかオチに繋がるとは思っていなかった。 ああ、なんという適当ぶり! |
「煩わしい時間」 |
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短編小説
2008.01/21 18:01
「人類史上、最も人間を殺した本はなんだと思う?」
夕暮れ前の静かな図書館で またこの時間が訪れてしまった。 「えと・・大量殺人鬼の自伝本とかかな」 自信がないというよりかは、適当に思いついた答えを 私は素直に口から出すことにした。 「人食い本」なんてのも一瞬頭を過ったが 発言後の空気が予測出来ないほどの人間じゃない。 彼との今までの付き合いを考えると、 彼がする質問は私が絶対に答えられないと すぐに分かるようなものばかりだったのだが それらは世間一般で正しいとされる答えの存在する 雑学的、専門的知識の質問などではなく、 彼自身の哲学や持論に基づく答えを、その理由も添えて 長々と私に聞かせて自己満足する為だったのだ。 それを聞かせれる相手が私か紙か空気しか存在しない事は 彼の普段の友好関係を見ればすぐに分かる。 彼のその無愛想な風貌から感じ取れる内面的印象よりも 遥かにユーモアセンスに長けている事を 知ろうとする人すらいないのであった。 私の答えに彼は少しニヤけて、その茶色い目を私に向けた。 「分からないのかい?」 いつもの事ながらその仕草は胃を痛めた。 もし私が彼に恋愛感情なるものを抱いていたなら この飽き足りた一連の流れも楽しいのだろうが 私にとって今から言う返答はただ単に わだかまりを残したまま家に帰っても 美味しいご飯や気持ちの良い風呂といった楽しみが 無意識に半減してしまうからだった。 「答え、教えてよ」 この生まれ持っての変な好奇心のせいで 私はこんな男と素直に図書館にいてしまうと思うと 我ながら情けなくなってしまうものだ。 彼は例の表情で私を見て呟くように言った 「答えはね・・・」 先ほども言ったが私は胃が痛くなってきたので そんなクイズ番組の最後の問題みたいに答えをひっぱる彼を すぐにグーで殴り付けてやりたくなったが この男は感心するほど流れを作るのが上手く、 私が限界を感じる本当に淵のところで答えを言うのだ。 おそらく抑えていても表情で読み取れるのだろう。 「聖書だよ」 しばらく自分なりに答えを探った後 「聖書・・?」 と聞き返し、さらに付け加えた。 「あの、教会とかで神父さんが持ってる?」 彼は小さく頷いた後に 用意していたであろう考えを言い出した。 「人を殺す本・・なんか問われたりしたら そりゃ当然、君が考えたみたいに、暴力的表現なんかで 変に影響されたやつが犯罪者になるイメージを想像する」 普段は口が開かない仕組みなのかと思うほどの彼だが この時ばかりは止まらない。 熟練のアナウンサーのようにスラスラと喋り続けるのだ。 彼が口下手な人間ではなく、自分の観点から 必要だと思うことか口にしない人間である事も この煩わしい時間のおかげで知れた。 「しかしながら本当に人間を操るのは、そんな心の隅で 罪悪感を覚えてしまうような不完全な方法ではなく、 希望をもたせ、罪悪を誇りに思わす事が究極なんだよ。 つまり、宗教という名の巨大な集団催眠でね。」 彼は目線を窓に移り変えながら続けた。 「過度に対象が愛されすぎてしまえば 狂信的な感情移入が働いてしまい 宗教戦争などが歴史で何度も何度も繰り返された訳だ。 彼らは自分が悪いなんて微塵も思っちゃいない」 一区切り終わると窓に送っていた目線をこっちにやった。 どうでもいい事だけど彼は推測などの話をしていても 決して「だろう」とか「思う」を付けない。 私が感じる妙な説得力はこのせいだろうか? 「ああいう関連の記述を読んでいると やってる側は甘美に勇ましく戦った様が描かれるが やられている側から見ればそりゃもう残忍なものだったよ。 敵兵の生首を砲台の弾にしたりね」 思わず私は自分の考えを口に出そうかと思ったが、 とりあえず最後まで黙って聞くことにした。 「例えばこんな話、砕いてしまえば 自分の好きなアイドルを馬鹿にされただとか 愛する人を守ってやりたいだとか 美味しいと感じた店を紹介したいだとかいう思考と 本質的な部分では一緒なんだよ」 彼が無信教である事は、その雰囲気と 髪先から爪先まで理屈で出来たような性格から 容易に想像出来るものだったのだが、 そんな事を信教者に言ってしまったら それこそ彼の持論によって殺されるだろうなとそっと思った。 「例えばこんな小説があるとする。 その主人公は見た者全てを虜にして、すぐ感情移入が出来、 読者自身の古くから慕うリーダーの様にさえ錯覚してしまい、 シリーズが出るたびに世界中で彼に関する行動が流行りだす。 もっとも、万人を虜にするならばその著書の作者が 天才でなくてはいけないが、例え話なのでそこは聞き流してくれ。」 私は動いたか分からないような小さな頷きをした 「そのレベルにまで達するともはや聖書だ。 作者はその巧みな文才で主人公の行動に もっともらしい理由をつけて行動させれば もしかしたら思考レベルで戦争や犯罪を肯定する考えを 無意識に植え付け、のちに読者が人殺しに走るかもしれない。 究極の小説というものを定義しようものならそれだ。 ある意味では君が最初に言った殺人鬼の自伝本なんかも その殺人鬼の性格云々によっては 実は答えに近いものだったのかもしれないな。」 ちょっと最後の例え辺りは極論が入りすぎていたので あまりスッと納得出来なかったが 一連の持論は私などには反論の余地もないほど 最初の質問の答えを納得させられるものだった。 まだ何か言いたげだったが、相手に議題内容を納得させた後に うんざりするほどそれに関係する事柄を喋り続けるのが彼のスタイルなので この辺りで適当な理由をつけて帰るのがベストなのだ。 そもそも私がこの図書館に来たのは 借りていた本を返すためだったのだが ここに住んでいるかのように常に彼はいるので 私が何らかの用事で図書館に行くたびに こうやって彼の話を聞かされる関係になってしまった。 最初の出会いも、突然の問いから今日みたいな調子で始まったのだった。 「あ、夕飯の時間だから帰るね」 そういうとついさっきまで見ていた窓の様子と違い 真っ赤に染色された町に少し驚いた様子で 渋々、席を立って本の物色作業に戻っていき 私は口から吸った息を鼻で吐き出して、図書館を去った。 あの日からいくらか時間が経過した。 いつもの様に終礼を告げる大きなチャイムと同時に 誰にも挨拶せず、彼は学校から逃げるように図書館に向かって行った。 別に教室を出る姿しか見てないのだが 彼が放課後に行くのは自宅でもクラブ活動でも バイトでも友達とカラオケに行くわけでもなく 学校近辺にある市立図書館以外考えられなかった。 私は学校でちょっと用事を済ませた後に 図書館に向かって学校を出た。 彼が行ったからなんて青春的な理由ではなく 純粋に、新たに借りたい小説があったからだ。 もっとも、あそこに行くとまたあの煩わしい時間が訪れるが 別にそれでも良いだろう。 多少の暇潰し程度にはなるし そもそも私に話を聞かせてくれるのは 小説か彼しかいないのだから。 [あとがき] 今までちょこっと書いてきた数個の小説と この小説の最大の違いを言うならば、 今までのものが「作者」が語る「客観的視点」だったのに対して この小説は主観的で、主人公の感じた事を書くタイプだ。 実はこっちの形式の方が素直に書けて好きなんだけど どうも感情移入的になりすぎてしまって なんだかなぁ・・だったんだが、 小説の内容を考えたときに「感情移入」という言葉が出たので ちょっと実験的に挑戦してみました。 ちなみに、最後がバッドエンドなのかハッピーエンドなのかは 見方(感情移入)によってちょっと変わってくるようにしてみましたが 実際はやはり作者の主観的な意図で、見てる人には伝わらないンだろうなぁorz |
「暇つぶしの時間」 |
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短編小説
2008.01/21 17:50
いつものようにこの淋しい静寂が漂う図書館に僕はいた。
一人だけという訳ではないが、本当に利用者の少ない図書館だ。 別に友達を作ってワイワイするのは嫌いではないし 事実、中学まではクラスでもかなり騒がしいグループの 中心・・といえば言いすぎかもしれないが かなり色々馬鹿騒ぎや悪さをしたものだった。 しかし高校に入って、入学式の帰り道に この近所の市立図書館に偶然立ち寄ってみたところ この何とも言えない雰囲気・・・・ まるで昔から此処に居たかの様な魅力にとりつかれ、 僕は学校の放課後はすぐに此処に来る様にしている。 同じクラスの奴らからすればそりゃもう陰気な奴と思われるだろうが 放課後に此処へ来るのを、色々な理由で邪魔されるよりは 3年間誰とも接しないまま此処に居る方がマシだと思ったし 自分のこの決断は間違ってはいないと確信する。 だが、正直言うとちょっと後悔している部分もあり、 僕は他人に色々と自分の考えを話す事が好きだったし 毎日、閉館時間の8時半まで色々な本を読んでいる事で 自分の中で抑え切れないほどの溜まってきた思考を 聞いてくれる人が、たまに会う中学の友達の、 それもそういう話題に乗ってくれそうな奴か 僕が学校で唯一親しくする国語の先生くらいだから いつでも話せる高校の友達を一人二人作るべきだった。 そんな事をいつも思っていたせいで 僕は週に1度ほど定期的にこの図書館に来る 同じクラスの女子に無意識に話しかけていた。 十中八九、無視されたり席を立たれると思っていたが この子もあまりクラスで話している友達を見た事が無かったので もしかしたら・・・と思ったらその通りだった。 この子はかなり色々と頭の中で考えているという事は ( 本人は気づいてない事だろうが ) 面白いほど明らかに表情に出るので 僕が話しかけるのが嫌だと思ってるのはすぐ分かる。 しかし、何だかんだでちゃんと聞いてくれるし 一言二言感想もくれたりするので それ以来、その子を図書館で見かける度に 溜め込んでいた考えを吐き出している。 自分でやっていながら気の毒だと思うが。 「人類史上、最も人間を殺した本はなんだと思う?」 今日はこんな事を言ってみた。 まだ「少女」という形容がよく当てはまるその子は その幼顔を色々な表情に変化させながら 最後に、そもそも質問の意味すら分からないと言ったしかめ面になり 面倒くさくなったのだろう、こう言った。 「えと・・大量殺人鬼の自伝本かな」 この子はいつも予想していた通りの答えをしてくれるので 本当に話し相手としては最良だ。 もし彼女に対しての恋なんかが芽生えれば、 僕は一日の過程で此処まで辿り着くのに 凄く浮かれたまま行動出来るのだろうけど あくまでこの時間は僕の自己満足に過ぎない事は おそらく相手も承知の上だ。 早くこの時間が終わってほしい、といった顔と 一体答えは何なのだろう、といった顔が 見事に表情から読み取れてしまうこの子を見ていると 思わず顔がニヤけてしまいながら 「分からないのかい?」 と僕は言った。 この子が見かけ以上に好奇心に満ちた子で 一度はじめのように、すぐには分からない上に 明確な答えの存在しない問いをしようものなら この子は絶対に途中で話を切り上げたりしない事は 今までの幾らかのやり取りで分かっていた。 「答え、教えてよ」 早く納得して帰りたいのだろう。 少し怒った声が混ざりながら、そう言った 「答えはね・・・」 実は僕がこの子に話す上で この時間が一番面白いし、楽しみにしている。 我ながら嫌な性格をしている事は分かっているが この焦らしの時間の間に一番この子は 様々な表情を見せてくれるのだ。 しかし、あまり親しくもない奴にそこまで焦らされた所で ただイライラが募るばかりなので いつもギリギリのところを見計らっているのだが 果たしてこの子自身はどう思っているのだろうか? もしかしたら自分が思ってる以上にギリギリを超えてるかもしれない。 「聖書だよ」 すぐに理由を続けようとしたが 少しばかり自分で考えてる様子なので黙っていた。 「聖書・・? あの、教会とかで神父さんが持ってる?」 もちろんこれは聖書自体を問いている訳ではなく その質問の答えがそれなのか、というのはすぐ分かるので 軽く頷いておいた。 「人を殺す本・・なんか問われたりしたら そりゃ当然、君が考えたみたいに、暴力的表現なんかで 変に影響されたやつが犯罪者になるイメージを想像する。 しかしながら本当に人間を操るのは、そんな心の隅で 罪悪感を覚えてしまうような不完全な方法ではなく、 希望をもたせ、罪悪を誇りに思わす事が究極なんだよ。 つまり、宗教という名の巨大な集団催眠でね。」 話の途中だったのだが、僕はいつもこの図書館にいるのに 一度も「夕暮れ」になる瞬間というのを見た事がない。 気づけば普通の町が真っ赤になっているのだ。 時間的にそろそろかなと思い、窓に目を向けて話を続けたが まだ空は普通の色をしていた。 「過度に対象が愛されすぎてしまえば 狂信的な感情移入が働いてしまい 宗教戦争などが歴史で何度も何度も繰り返された訳だ。 彼らは自分が悪いなんて微塵も思っちゃいない」 空も大事だが、何よりこの時間大事なのは この子のすぐ移り変わる顔を見ながら話す事だったので 一区切り終わらせてからにしようと思い、向きなおした。 「ああいう関連の記述を読んでいると やってる側は甘美に勇ましく戦った様が描かれるが やられている側から見ればそりゃもう残忍なものだったよ。 敵兵の生首を砲台の弾にしたりね」 こういう話をよくするくせに基本的にあまり知識はないので その話がどんなものだったか忘れてしまっていた。 本自体はよく読むが、そういった知識を得れる本などは読んでいないからだ。 ( 最も、場合によってはそういう知識を得る場合もあるが。 ) たしか、十字軍が聖地エルサレムをイスラム教徒から奪う戦争だったか。 この子も何か言いたげな表情だったが おそらく終わりまで聞こうと思ったらしく、黙ってしまったので 僕はまた話を続けた。 「例えばこんな話、砕いてしまえば 自分の好きなアイドルを馬鹿にされただとか 愛する人を守ってやりたいだとか 美味しいと感じた店を紹介したいだとかいう思考と 本質的な部分では一緒なんだよ」 また何か考えてる。今度は何を考えてるのだろうか。 「お前にはそれをする相手がいないくせに」とか そんな事を思っているのだろうか? 「例えばこんな小説があるとする。 その主人公は見た者全てを虜にして、すぐ感情移入が出来、 読者自身の古くから慕うリーダーの様にさえ錯覚してしまい、 シリーズが出るたびに世界中で彼に関する行動が流行りだす。」 おそらく必要ないだろうが、何となくこういう補足を つい出してしまう性格なので付け足す事にした。 「もっとも、万人を虜にするならばその著書の作者が 天才でなくてはいけないが、例え話なのでそこは聞き流してくれ。」 この子は反射的に顎が軽く上下した。 「そのレベルにまで達するともはや聖書だ。 作者はその巧みな文才で主人公の行動に もっともらしい理由をつけて行動させれば もしかしたら思考レベルで戦争や犯罪を肯定する考えを 無意識に植え付け、のちに読者が人殺しに走るかもしれない。 究極の小説というものを定義しようものならそれだ。」 この自分の発言でふと、 いつだったか「究極の小説とは何だと思う?」と言った質問と 内容が非常に酷似している事に気づいてしまったが よく考えれば、それは中学の友達に話したやつだったので安心した。 「ある意味では君が最初に言った殺人鬼の自伝本なんかも その殺人鬼の性格云々によっては 実は答えに近いものだったのかもしれないな。」 この発言をした直後に「しまった」と思った。 まだ話したい話があるというのに、 この子の顔は、問いに対する答えには十分だと悟ったようで またいつもの帰る理由を言うタイミングを見計らう顔になってしまった。 まだ話したい話というのは 「印刷」というものが始まった根本の理由が 「聖書を広める為」だった事に関するものや、 聖書の持つ小説と違うスピリチュアル的プラス面など いくつも頭の中に存在していたが諦めるしかないようだ。 自分のポリシーみたいなもので、 一度誰かに話したテーマは、他の人には話さないので 「人を殺せる本」の話はこれで終わってしまった。 「あ、夕飯の時間だから帰るね」 そういって椅子の横に置いていた鞄を机の上に乗せたので、 僕はまた閉館時間まで小説でも物色しようと思ったのだが 一つすっかり忘れていた事がある。 はっと窓を見たときにはすでに町は赤く染め上がっていた。 僕は一生、染め上がるあの一瞬の過程が見れないのではないか? そんな事を思っている間にあの子の背中は小さくなっていた。 さて、今度はいつ来るのだろうか 次の議題はすでに決まっている。 何だかんだで胸の高鳴りを感じるのであった。 [あとがき] 「煩わしい時間」の別視点小説というのを書いてみた。 つまり、あっちの方が先に書いたんだけど、 順番的にはあっちを先に読んでほしいと言うことで順番変えてみた。 別に元々こういうのを書くつもりはなく なんとなく挑戦してみたんだけど、これがなかなか面白い。 変にお互いの都合をあわせて書いていくよりも 前の小説で何となくつけた動作に、合う理由を考えていくというのは 普通に小説を書くよりもずっと楽かもしれない。 でも・・・もう一生やりたくないな |
「王の決断」 |
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短編小説
2008.01/18 19:02
城下町に冷たい風が吹き、
それは人の肌に触れる事もなく町を吹き抜けていった。 町には今日も、ただ静寂の時間が流れるばかりであった。 かつてこの城下町は活気に溢れ この国の子供と隣国の子供が仲むつまじく遊ぶ光景が 町のそこらで普通に見る事ができ、 数え切れない商店が並び、皆は日々の生活に幸せを感じながら 祖国を愛し、隣国を愛した平和な国だった。 しかし、ある隣国で紛争が勃発し それが周囲の国にも伝染していき、次第に国交は悪化し、 一つの国王が兵に不穏な動きでもさせようものなら そこから一帯を巻き込む大紛争に発展する事は目に見え、 周囲の国はお互いを睨み合う冷戦状態にあった。 が、中にはこの機会に自国の領土を広げようとする好戦的な国もあったので それが始まるのももはや時間の問題であった。 平和を愛するこの国の王は この事態を打開する案はないものかと三日三晩悩みはて ついに一つの方法を思いついたのだが その方法をすぐさま大臣は止めた 「王!この国の状況が分かっておいでですか!?」 王は暫く沈黙の後、大臣の目を見て言った。 「十分承知しておる。しかし・・それしかなかろう」 王の強い意志はそのまま眼光に現れ、 それに圧倒された大臣はついに根負けし、了承した。 その日、月明かりに照らされた城門から 小汚いフードをかぶったみすぼらしい老人が一人、 そっと馬を走らせ、それは荒野の闇へと消えていった。 それに気づいたものなどいなかった。 老人が半月ほど馬を駆けていると、 この騒動のきっかけとなった国であり、 そしてそれを止める唯一の手がかりをもった国・ウェフスが 遠方から徐々にその姿を見せ始めた。 遠方から来る老人に、門番の男は警戒し それが門の前に到達しようとする前に槍を突き立てた。 「怪しいものをこの国に入れる訳にはいかない!」 老人は手綱をひき、馬を止めると、袋から筒を取り出し その中から一つの紙を門番に見せた。 「ワシはゲルニジア国からの遣いのものですじゃ。 ほれ、これが国王様の勅命書じゃ」 知らせはすぐにこの国の王に届き、 王は遣いの老人を城まで案内させるよう命令した。 まさかそんな老人が暗殺をしに来たとも思えないし、 王はゲルニジアという国の事をよく知っていたのだった。 豪華に装飾された王座に座りながら 深々と跪く老人に向かって王は言った。 「この危ない時期によく遣いに来てくださった。歓迎しますぞ」 すると老人は顔を上げ、こう返した 「いやはや、やはり皆、老人だと思うと油断するようじゃな」 一瞬この言葉を理解できなかった王だが 理解する前に少し警戒し、懐疑の目で老人を見た。 老人はローブを脱ぎながら柔らかい口調で話した 「まだ分からないのか・・?古き友よ」 そこにはゲルニジア王国の王座に座っているはずの人物がいた。 「なんという事だ・・・」 ウェフス国王は「驚き」と「喜び」、 どちらをすればいいのか分からないといった表情で 王座から立ち上がった。 ようやく事態を飲み込めたウェフス国王は すぐさま歓迎の宴の準備をさせようとしたが、 ゲルニジア国王はそれを止め、ウェフス国王の目を見た。 「ワシは自分の勅命を受けてきた遣いなのじゃ。 用件を言わせてくれ。」 するとウェフス国王は、何も聞かないまま頷いた 「あぁ・・ああ。分かっている。 こんな状況は私も望んではいないのだよ。 だからどうにかして貴方と会える方法を考えていたのだが・・・ まさかそちらからこうしてくる方法は思いつかなかった」 と、話の途中だが笑いが堪えられなくなり、 ゲルニジア国王もそれにつられて笑った。 咳をしてから改まって話を続けた。 「とにかく、二つの国が和解交渉に乗り出せば もう他の隣国も硬直状態が解けて国交正常化は容易だろう。 本当にありがとう、古き友よ。」 ウェフス城の王室のバルコニーに 二人の王様は夜風を浴びながら話し合っていた。 「しかし疑問なのだが・・・こんな状況で、王がいないとあっては 貴方の国は大変な事態に陥っているのではないか?」 その言葉を聞き、少し自信に満ちた顔でゲルニジア国王は答えた 「心配いらんよ。実はワシそっくりの影武者がおってな。 実質は大臣にその間の政治はまかせているのだ。彼なら信用できる」 それを聞き、ウェフス国王は笑いながら答えた 「しかし、その大臣がもし、貴方のいない間に国を乗っ取っていたらどうする」 またゲルニジア国は自信に満ちた顔で返した。 「万が一の事を考え、兵の総大将にはいつもこう命令しておるのじゃ。 お前は物事を正しく見る目があるから、もしワシが不穏な動きでもしようものなら いくら王といえども、容赦なくひっとらえろと・・な。」 「そりゃ、万全だな」 ウェフス国王はまた笑い納得した顔でその話を終わらせ、 今度は自分たちの若いころの話に花を咲かせ、 二人の王は一晩中、昔を語り明かした。 次の日、太陽が十分に昇る前に一人の老人が門から馬を走らせた。 自分の国に帰るためにまた半月の道のりを戻らねばならないからだった。 王は自分の国を信じてはいたのだが 昨晩のウェフス国王との会話で少し不安を覚えていた。 「ワシの居ぬ間に国がメチャメチャになっていないだろうか・・」 王は考えられる全ての状況を何度も何度も考えながら 来た道をひたすら戻り続け、 ついに自分の愛する国の姿を見る事が出来た。 そこには無事どころか、 国中を上げてパレードをする国民の姿があった。 王はポカンとした表情でローブを取ってその光景を見た。 確かに自分の行為によって後々国交は正常化するのだが、 それにしてもまだこの国には知らされていないはずだ。 しかし、何にせよ王は喜んだ。 あそこまで荒んだ国がここまで活気に満ちた姿を また見れる日を本当に楽しみにしていたのだった。 王はすぐさま城の戻ろうとしたが、 町の人々の会話が耳に入り、その足を止めた。 「まさかあの温厚なあ国王と大臣が、突然この国を滅茶苦茶にしようとするとは。 しかも国王にそれらを提案していたのは大臣だったそうじゃないか」 「しかし、なんにせよ総大将様がそれを救ってくれたんだ。この国は変われるさ!」 この国は新しい王の誕生と、その王が着任後に素晴らしい指揮力で 一帯の国交をすぐさま回復に向かわせた事を祝う宴が、連日のように続いていた。 その夜、町の酒屋では一人の老人が暴れだし、小さな騒動となった。 [あとがき] 当初この話は、大臣と影武者と総大将全員がグルで そのままこの国が超交戦国になってしまい、 王が帰還したときと同時にウェフスに兵が送られるという 超バッドエンドにしようかと思ったんだけど、 考えた末にこうなってしまった。 まぁ・・・駄作 |
「最後の希望」 |
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短編小説
2008.01/03 02:11
男は我が物顔で、綺麗なイスにどっしりと座り
高級そうなパイプ煙草を優雅に吹かし、その煙を眺めていた。 彼の仕事は「監視する事」だったのだが その必要もなくなってきたといつもながら実感している。 事実、彼はあと少しで別の仕事に回される事になるのだった。 彼の前方には、せっせと重労働に取り組む奴隷労働者たちがいたのだが その余りの反抗のなさ、賢明さに時々ニヤけてしまいながら その7本の指で、イスの横に付属されている 長い間使っていない電気ムチを物欲しげになぞっていた。 この、かつて地球と呼ばれた星は 今から12年前に突如やってきた彼らに、瞬く間に植民地に変えられてしまった。 地球人も宇宙進出を始めてからの歴史の中で 異星人間での交渉などは非常に上手くいっていたので 決して防衛能力が無かったという訳ではない。 なにより彼らには、使い様によってはどんな兵器よりも強力なものを所持していた。 それは「未来を予知する装置」で、便利な事に対処法まで最良のものを割り出される。 これにより人類は数々の災厄も事前に対処できていたし、 異星人が突如攻めて来るというのも、もっと早くに知れていたならば 迎撃体制を万全に取れ、もしかしたら勝利していたのかもしれない。 しかし不運にもその装置の緊急メンテナンスの間に彼らに攻め込まれ、 地球から感知できる範囲に来た時はすでに迎撃体勢を取るのは不可能だった。 それから地球はすんなりと完全降伏を宣言し、 奴隷労働者として一生を生きるという義務を課せられた。 しかし、彼ら異星人達が今までに作り上げてきた植民地の中で この星の奴隷労働者たちは遥かに異質で、 彼らの目には「希望」というものが感じられたのだった。 当然、他の星の人々に強制労働を円滑に強いらせる為には、 見せつけで殺してみたりなど、恐怖や圧力を与えて働かすものなのだが この労働者達は、ほとんどが素直に労働に従った。 抵抗による被害を殆ど出さずに、彼らは奴隷となったのだ。 故に、かれらの築き上げてきた長く、誇り高い「歴史」は 「完璧なる奴隷の育成期間」と皮肉られて言われる有様で それらからもこの星の人々は耐え続けた。 「・・あと少しの我慢だ・・」 「あと8年か・・・それで俺たちは・・」 気まぐれに巡回してきた異星人が視界に入り、 彼らは話をやめ、熱心に作業に戻った。 何故そこまでして彼らは労働に従えるのだろうか。 その根拠というのが、彼らの持っていた装置なのだ。 侵略される前にメンテナンスがようやく終了し その装置からある予言が全人類に告げられた。 『残念ナガラ 貴方達ハ ドウ足掻イテモ 異星人ニ奴隷ニサレテ シマイマス。 シカシ 貴方達ハ ドンナニ辛イ状況ニ陥イロウト 決シテ 下手ニ反抗シテハ イケナイ。 20年 彼ラノ元デ大人シク 労働シテイレバ 必ズ 救済ノ手ガ 差シ伸ベラレルノデス。』 彼らには絶対的な確信があった。 この装置に幾度となく助けられ、ここまで人類は成長できたのだ。 あと20年間真面目に労働さえすれば開放される事を知った人類は 下手にこの装置を置いておき、異星人にこの装置の原理を解明されたら 彼らもそれへの対処法を知ってしまうと思い 涙を飲んで、その予言を最後に、装置を破壊してしまった。 その装置を開発した男は、両手の人差し指と中指が太い事から 「ビッグピース」という愛称で、地球の発展に大きな影響を及ぼし尊敬され続けたが、 彼の独断で特に重要でもないメンテナンスを突然開始したのが そもそもの最大の原因であると咎め、責任を負い立てる薄情な者も実際かなりいた。 それによってビッグピースは未だ失踪しているのだが 彼に非がない事は、咎めていた人々も本当は十分知っており 地球がまた平和に戻ったら、彼に心から深く謝罪し、 もう一度装置を作ってもらおうという願望が皆の心の中にはあった。 あの装置は非常に精密な機器を使用しているらしく 彼しか触れてはいけないという規則になっていたので、 誰も同じものを作れないのであった。 それらも、辛い重労働への原動力に一役買っていた。 そして月日は経ち、普通の星の植民地が尽き果てるまで労働させられるよりも 遥かに素晴らしい働きをするこの星の奴隷達は ついに待ちわびたその年を迎えた。ついに奴隷になって20年目に突入したのだ。 人々は普段どおりに労働をしていたが 動きや表情は今までに比べると自然と軽快なものになり、 異星人もこれには流石に気味悪がった。 今日くるか・・明日くるか・・・来週くるか・・来月くるか・・・ 彼らは「救済の手」の登場に胸を熱くし 20年目の年は今までで最高に素晴らしい働きを行っていた。 奴隷といえど、働きがよければ待遇もいいもので 殆どの人間がテレビを観れる状況だったのだが もちろん元々のテレビ局などはとうに廃止されたので 異星人達は彼らが過去に作成した番組などを コンピュータで自動的に再放送していただけだった。 しかし当然、彼らにとってはそれで十分すぎる待遇だったので、 いつものように休憩時間になると、テレビに釘付けになっていた。 すると突然、全ての局で砂嵐が発生し、 ゆっくりと同じ放送が流れ始めた。 そこには両手でにこやかにピースをする「ビッグピース」が映し出され しばらくの静寂の後、状況を理解した人々は大きな歓声を挙げた。 ついに待ちわびた救世主が登場した瞬間であった。 「そうか!彼だったんだよ!救世主は!」 「ビッグピースだ!ビッグピースがやってくれた!」 「奴らのコンピュータをジャックしてくれたんだ!」 「やった!!やったぞビッグピース!」 世界中では自然にビッグピースのコールが始まり、 全ての人が安堵感や達成感に満ちた顔で テレビに写るビッグピースを見て涙を流しながら注目していた。 すると突然、ビッグピースの太い指の中央に亀裂が入り 他の指と同じ太さの指が2本ずつ現れ、計7本の指になった。 そして7本の指で首筋をなぞるように辿り 特殊メイクをじれったく剥がすと、そこにはよく見慣れた異星人が現れた。 「いやはや、君の考え出した植民地計画は 予想を遥かに越えるほど、本当に素晴らしいものだったな。 今度からこの作戦を色々な星で実践的に使用する事にしよう。 『ただ音声が流れる装置』に従って、我々の仕向けた災厄を 気付かれない様に我々自身が取り除けばいいのだからな。」 一区切り喋ると、総司令官は後ろの広大な闇を見つめて続けた 「・・・・・しかしあの星がああなったのが残念で仕方ない。 尤も、もはや労働力としては利用できない状況だったがね」 木っ端微塵となった星から退避した彼らの母船の中で かつてその星で「ビッグピース」と呼ばれていた男は 総司令の言葉に対し、ニヤけた顔でこう言った。 「これはビジネスではなく、ギブアンドテイクですよ。 私は貴方達に期限付きの最高の奴隷を用意する。 その代わり、私はあの・・なんとも言えない 情けない表情をたっぷりと鑑賞させてもらうんですよ。 これほど気持ちのいい仕事は、宇宙を探しても他にないでしょう」 |
「利益の薬」 |
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短編小説
2007.12/31 06:53
長年、薬を研究し続けた男は
ある日ついに自分の最高傑作の薬を作り上げた。 彼は同僚たちにも黙って作っていたその秘密の薬を 完成した日、ようやく打ち明けたのだった。 「これをみてくれ。俺が作った薬だ」 男はビーカーにある液状の薬品を片手に持ち、自信げに同僚たちを集めた。 同僚たちは興味を示し、男の元に集まったが その説明が始まるとその未知への期待を込めた表情は 次々とその色を変えていった。 「おいおい、俺達は自分たちの企業の利益だけを考えて研究してきたんだ」 「眠気覚ましの薬を日夜研究してるのに、そんな薬なんて開発してどうするんだ」 「それに、それを目的とするなら、もうカプセル状で事足りてるじゃないか」 男の今までの努力をあざ笑いながら 同僚たちはまた強力な眠気覚まし薬の開発に取り掛かるため いそいそと自分たちの持ち場に戻ろうとした。 すると男は突然笑い出し、同僚たちに強い口調で言った 「いいか、お前たちがどれだけ強力な眠気覚ましを作ろうと 俺の作った薬がもたらす収入に比べれば、屁でもない」 その言葉にまた嘲笑が沸いたが、男が説明を終わると ようやく納得し、同僚のみならず企業全体で急いで 全国の薬局やコンビニなどで自社の眠気覚ましを ほんの一時的だけ、大量に棚に並ばせる努力を始めた。 その日、太陽が沈んで暫くした頃、 空にはいつもより多くのヘリコプターが飛び交い 少し空気はいつもより湿り気があったが、 人々はそれに関心を示す気配などなかった。 それは全国で見られる光景だったのだが同様に 全国の人々がそれに関心を示そうとはしなかった・・ というより、別のものに完全に興味を奪われていたのだった。 残りがあと数時間になろうとしていた時、 人々は次々とコンビニや薬局に押しかけ眠気覚ましを大量に購入しに押しかけた。 それはこの企業の3年間の利益に相当するほどの爆発的なものだった。 人々はこのほんの僅かな時間を拝む為に 上空から霧状に噴射される、彼の開発した強力な眠気促進薬に耐えながら 何本も何本も眠気覚ましを飲み、その時を今や遅しと待つのであった。 それは百年に一度しか味わえない、新たなる世紀に変わる前日の出来事であった。 [あとがき] 年末ネタとして急に思いついたやつです。 別に実在する企業・・・うわなにをするやめr・・・ |
「音の世界」 |
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短編小説
2007.12/27 15:46
「ああ、うるさい」
事業家の男は、自分の発言の9割以上を占めるそのセリフを 自分でも飽き飽きしながら今日もつぶやいた。 近年の急速な発展により爆発的に増えた人口は 地球の隅々までその行動範囲を広げ 前世紀の人口と比較すると、まるで一軒家に 20人が住んでいるかのような窮屈なものとなった。 特に都市部は「会社」と「道路」と「超密集マンション」で 街が構成されてると言っても過言ではなく 防音加工の壁をも簡単に通り抜ける不協和音が 至る所で奏でられていた 「どうにかならないものか・・」 「ヘッドホンで音楽でも聴いて紛らわせばいいじゃないか」 「騒音を更に音で紛らわすなんて馬鹿な真似は俺には出来んよ」 男はそう言いながら隣の席で軽快にリズムを取る若者を 多少の軽蔑の念を孕み、横目で眺めつつ 混んだカフェで友人とコーヒーを飲んでいた。 「今の世の中、静けさがダイアモンド以上の価値だな」 店の外に降り立った小型ジェット機のエンジン音に耳をふさぎながら 遠くの人に話すように友人は言った その時、突然男の中に自分の悩みを解決でき なおかつ新しいビジネスになるものをひらめいた。 それは目の前にいたのが科学者である友人だから思いついたという すごく他人まかせな案だった 「世の中を変えるなんて無理な話だ。変えるなら人間だよ」 突然何かを言い出した男に、友人は注意深く耳を傾けた 「金ならいくらでも投資する。人間が音に鈍感になる薬を開発してみないか」 男のこの提案に初めは困惑した友人だったが その話にすぐさま食いついてきたのは、対策に日夜頭を抱えていた政府であった。 かくして国を挙げての後押しのおかげもあり、 苦心の末に数年後、その薬が開発された。 この薬の最も優れているところは 人間の声の波長だけを感じ取れ、周囲の雑音だけを感じにくくするところであり、 この革命的な発明品はすぐさま世界中に広まり 発案者と開発者の二人は多くのトロフィーや報酬を得た。 この薬の爆発的な普及によって、さらに人口密集は加速し 世界各国で鳥が墜落するという不思議な事件が起きつつも この星の住民は日に日に増してゆく壮大な不協和音を奏で続けた。 「下手にミサイル攻撃でもすれば、たちまち戦争になって 核兵器なんか使われ、侵略した意味がなくなる・・・。」 「しかし・・・あの星を我々の最も得意とする地上戦で 打ち滅ぼすというのは確実に不可能だ。 星全域にあんな強力な音波バリアを張られてしまっては・・!」 「くそっ!まさに最強の要塞だ・・!!」 「あの星の生物は、我々とは違って、おそらく聴覚器官がないのだろう」 数々の星の侵略を確実に可能にしてきた凶悪な宇宙人は 新たに侵略する予定だった星の目前の所で停止した宇宙船内部でこう話し合い、 探索に潜った4機の機体が着陸寸前で全滅という最悪の結果で、 この星の住民に知られる前に 初の敗北感を味わいながら去っていったのであった。 [あとがき] 星新一さんの短編小説の「最後の事業」という話を読みながら思いついた話。 思いついたと言ってもそれは完全に「最後の事業」を元にした オマージュ作品であり、軽い遊び企画程度なのであしからず 世界設定的にはほぼ同じ感じだけど 展開が全然別方向に行っています。 作中にチラッと出てきた博士に完全にスポットを当てた作品です。はい |
宇宙戦争を短編小説にしてみた |
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短編小説
2007.12/25 13:27
天気「晴れ」
昨日もらった「ようこそ地球さん」を読みふけっていたんだが 前に読んだ時につい飛ばしてしまった「セキストラ」という話が 本当に面白い・・・そして星新一さんってやっぱスゲー!って思う短編話だ。 「○○の記事の一文より」みたいな 色々な雑誌記事、ある人の手紙の一説などを 淡々と切り抜きで書いているので、初めて見たときは 「たぶん作者が見た色々な雑誌の面白い部分を集めたやつだろうな」 って思っていたが、実はそうではないのだ。 その色々な雑誌・・というのも作者自身が創った架空世界の雑誌で 一説などの切抜きを淡々と貼っていながらも全体を通すとストーリーになっているという オムニバム形式とはまた別種のストーリー展開を広げるという構成。 それで世界状況を理解していけているのが本当に感動した。 星新一さんはやはりショートショートの神様と言われるだけあるぜ! しかし・・セキストラ装置の設定でまんま、 普通に小説書くだけでも内容としては面白いのに あえてこういう方法を取って書くってのがもうたまらん・・! (セキストラ装置についての詳しい補足は割愛) そういえば、ようやく本題なのだが(上は全く関係ない。) 俺が昔見て「うわ、つまんね」って思った映画「宇宙戦争」も 星新一さん的な雰囲気で短編ものにしたら 結構面白いじゃん!って事を思った。 なので論より証拠、ちょっと書いてみようと思う。 まぁ小説書くのは下手なので星新一ファンの人が見たら 「全然雰囲気違うじゃねーか」って思うかもしれないけど、それは許して下され。 それにあくまで「風」なので書き方は自分特有でやります。 あと、ストーリーや設定もけっこうイジってます。 あの人の小説ではお馴染みの「今まで登場しなかった人物の視点」ってのを入れたくてね。 ※この小説の内容は映画「宇宙戦争」のネタバレを含んでおります。 右メニューから飛んだ人や、携帯から観覧した人は 「続きを読む」が表示されずに自動で全表示になるので 注意してください。 |
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